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韓国大法院、結晶質複合体特許における成分比が異なる水和物複合体について均等関係を否定

  • March 31, 2026
  • 孫世靖弁理士

サクビトリルとバルサルタンが結合した結晶質複合体化合物に関する特許権利範囲確認事件において、水分子数が異なる三水和物化合物を含む医薬組成物は、特許発明と課題解決原理が同一であると認められず、特許の権利範囲に属しないとの韓国大法院の判決が下された(大法院2026.1.15.宣告2024Hu11590判決)。

 

 

事件の背景

 

本件特許発明は、結晶質形態の三ナトリウム・サクビトリル-バルサルタン2.5水和物化合物であって、アンジオテンシン受容体遮断剤であるバルサルタン、エンドペプチダーゼ阻害剤であるサクビトリル、ナトリウム陽イオンおよび水分子が1:1:3:2.5の化学量論比で結合した超分子複合体に関するものである。当該複合体は、作用機序の異なる2つの医薬活性成分がナトリウム陽イオン及び水分子との非共有相互作用により会合し、生体外では単一の化合物のように挙動する一方、体内に投与及び吸収されると同時に個別成分に解離して薬効を発現するという特徴を有する。

 

一方、韓国のジェネリック社は、バルサルタン、サクビトリル、ナトリウムイオンおよび水分子が1:1:3:3の比率で結合した三水和物化合物を有効成分として含む医薬組成物を確認対象発明として、消極的権利範囲確認審判を請求しつつ、当該組成物が本件特許の権利範囲に属しないと主張した。

 

特許審判院は、本件特許発明と確認対象発明の化合物は、水分子数、結晶構造およびX線回折パターンなどが相違するため同一の発明とはいえず、当該差異は、発明の課題解決原理が相違するものであって、均等関係は成立しないと判断した。また、特許権者が出願過程において結晶質形態の2.5水和物に特許請求の範囲を減縮しながら、それ以外の固体形態については別途分割出願を行うことにより、本件特許発明の特定の結晶体以外の形態を意識的に除外したものと認め、確認対象発明は本件特許の権利範囲に属しないという審決を下した。これを不服として、特許権者は特許法院に控訴した。


特許法院の判断

 

控訴審において特許権者は、水分子は容易に変更可能な任意成分であり、技術思想の核心ではなく、水和度のみが異なる医薬品は承認当局においても同一医薬品として取り扱われる点などを挙げ、確認対象発明も本件特許発明と同一の結晶構造に基づくものであり、均等範囲に属すると主張した。

 

しかし、特許法院は、本件特許発明が公知の2つの医薬活性成分の単なる組合せ・併用形態を超え、バルサルタン、サクビトリル、ナトリウムイオンおよび水分子が1:1:3:2.5の化学量論比で会合した新規な結晶質形態を開示した点に技術的意義があると認定した上、確認対象発明は構成成分の化学量論比が異なり、それに伴い結晶体としての物理化学的特性にも差異があるため、課題解決原理および作用効果が相違すると判断した。そこで、特許法院は、確認対象発明が本件特許の均等範囲に属しないと判示した。

 

さらに、出願過程において結晶質形態の特定の水和物に特許請求の範囲が限定され、本件特許発明の化合物を除外する形式で分割出願が行われた点などを考慮すると、確認対象発明は本件特許の特許請求の範囲から意識的に除外されたものであると判断した。


大法院の判断

 

大法院は特許法院の判断を維持し、特許権者の上告を棄却した。

 

まず大法院は、確認対象発明と特許発明の課題解決原理の同一性を判断するに当たり、特許請求の範囲の構成を形式的に抽出するのではなく、明細書の記載および出願当時の公知技術などを参酌し、特許発明に特有の解決手段が基礎としている技術思想の核心が何であるかを実質的に把握して判断すべきであり、さらに、先行技術を参酌して特許発明が技術発展に寄与した程度に応じて、課題解決原理をどの程度広く又は狭く把握するかを決定すべきであるという従来の判例の法理を再確認した。

 

本件において大法院は、明細書においてバルサルタンとサクビトリルが超分子複合体を形成する原理が記載されていない点、実体が確認された固体形態は2.5水和物に限定されている点、さらに優先日当時の技術水準においても共結晶又は複合体の結晶構造や分子配列の予測は困難であり、それに伴う物理化学的特性の予測も容易ではなかった点に着目した。これらの事情を総合して、本件特許発明の技術的寄与は、バルサルタンとサクビトリルをナトリウムイオンおよび水分子とともに1:1:3:2.5の化学量論比で会合させ、単一の化合物のように挙動する超分子複合体を特有の解決手段として提示した点にあり、水分子数が異なる化合物にまで技術発展に寄与したと評価することはできないと判断した。

 

以上を踏まえ、大法院は、確認対象発明は課題解決原理が同一であるとは認められないため均等範囲に属しないと判断し、意識的除外の有無については別途判断するまでもなく、確認対象発明は特許の権利範囲に属しないと結論付けた。