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特許法院、記載不備の拒絶理由への対応として行った補正に対して包袋禁反言の原則を適用

  • June 30, 2020
  • 曺炯恩弁理士

最近、韓国特許法院は、出願過程において記載不備の拒絶理由への対応として、特許請求の範囲に記載された一般的な用語を具体的な構成要素に減縮する補正をしたうえで特許登録を受けた場合、補正された特許請求の範囲に包含されなかった構成要素は意識的に除外されたものと判断し、包袋禁反言の原則を適用した(特許法院2020.3.20.宣告、2019Heo3083判決;大法院への上告取下)。



事件の背景

 

イ.本件特許及び出願経過

 

本件特許発明は、放出制御型のサルポグレラート塩酸塩含有多層錠剤に関するものであって、審査過程において明確性要件及びサポート要件欠如の記載不備に係る拒絶理由が発せられ、下記のような補正をしたうえで特許登録となった。

 

構成 補正前の本件特許第1 補正後の本件特許第1
1 サルポグレラート塩酸塩 サルポグレラート塩酸塩
2 親水性高分子及び
放出制御型の徐放性基剤



を含む徐放部
親水性高分子として、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、
ヒドロキシプロピルセルロース及びアンモニオメタクリレートコポリマーで構成された群から選ばれる
1つ以上の放出制御型の徐放性基剤
を含む徐放部
3 放出制御型のサルポグレラート塩酸塩含有多層錠剤 放出制御型のサルポグレラート塩酸塩含有多層錠剤

(関連構成要素のみを記載)  

 

 

ロ.消極的な権利範囲確認審判

 

競合他社であるA社は特許権者を相手取って、自社製品(以下、「確認対象発明」という)が本件特許の権利範囲に属さない旨の判断を求める消極的な権利範囲確認審判を請求した。

  

構成 本件特許第1 確認対象発明
1 サルポグレラート塩酸塩 サルポグレラート塩酸塩
2 親水性高分子として、ヒドロキシプロピルメチルセルロースと、
ヒドロキシプロピルセルロース及びアンモニオメタクリレートコポリマーで構成された群から選ばれる1つ以上の放出制御型の徐放性基剤
を含む徐放部

徐放化剤として、
ポリエチレンオキサイドと、ヒドロキシエチルセルロースを含む、徐放部からなる裸錠をコーティングした、



3 放出制御型のサルポグレラート塩酸塩含有多層錠剤 放出制御型のサルポグレラート塩酸塩含有多層錠剤

 

 

本事件においては、前記のような徐放性基剤の相違が均等関係にあるか否か、特に、減縮された徐放性基剤以外のその他の賦形剤が出願過程において意識的に除外されたと言えるか否かが争点となった。

 

特許審判院は、確認対象発明の構成要素のうち、ポリエチレンオキサイド、ヒドロキシエチルセルロースは、本件特許の審査段階で特許権者が記載不備の拒絶理由を解消するために、請求項の構成から意識的に除外したものであるため、確認対象発明は本件特許の権利範囲に属さない旨審決を下した。特許権者は、それに不服して審決取消訴訟を提起した。

 

 

 特許法院の判決

 

特許法院は、次のような事実を考慮すると、確認対象発明は出願過程で意識的に除外されたものと判断しながら、原審を認容した: 

 

(i) 審査過程で明確性要件のみならずサポート要件欠如の拒絶理由が一緒に発せられ、特許権者が前記拒絶理由を解消するために、放出制御型の徐放性基剤を実施例の範囲にのみ限定したこと 

(ii) 特許権者は、補正を通じて除外された放出制御型の徐放性基剤も減縮された特許請求の範囲と同等の効果を奏するなどの主張を別途提示したことがないばかりか、審査官の見解に承服する旨意見を明記したこと 

 

なお、特許法院は、審査官の拒絶理由に対して出願人が特許請求の範囲に記載された一般的な用語を特定の構成要素に補正したとき、その補正により拒絶理由の不当性を争うことのできる手続的な権利はもはや消滅したと解すべきなので、その後、出願人(又は特許権者)自ら除外した部分がまた減縮された特許発明の権利範囲に含むと主張することは、包袋禁反言の原則に反することを明らかにした。