2020 年 5 月 20 日、特許権者の生産能力を超える侵害物品に対しても特許権侵害に基づく損害賠償の請求を認めることを骨子とする特許法改正案が韓国国会の本会議を通過し、2020 年12 月 10 日より施行される見通しである。今回の改正特許法は、2019 年 7 月 9 日より施行中の懲罰的な損害賠償制度と共に、韓国における特許権侵害に対する保護を更に強化すると期待される。
▶ 特許権者の生産能力を超える侵害製品に対する損害賠償の請求
現特許法では、特許権者が侵害者に対し請求できる損害額は、「侵害者が譲渡した侵害製品の譲渡数量」に「特許権者がその侵害行為がなければ販売することができた製品の単位数量あたりの利益額」を乗じて得た金額で計算される。しかし、その損害額は、特許権者の生産能力により限られるため、「特許権者が生産することができた製品の数量」に「単位数量あたりの利益額」を乗じて得た金額を超えることはできない。例えば、特許権者が生産することができた製品の数量が 300 個であり、侵害者により譲渡された侵害製品の譲渡数量が 10,000 個である場合、特許権者は本人の生産能力を超える 9,700 個の製品に対しては損害賠償を受けられないこともある。従って、現特許法下では、特許権者の生産能力が侵害者の生産能力よりも低い場合、被害者の特許権者が受けることのできる賠償額が不十分であるとの指摘があった。
かかる問題を解消すべく、改正特許法では、現特許法で認められる特許権者の生産能力範囲内の損害額(即ち、300 個×単位数量あたりの利益額)に加え、特許権者の生産能力を超える侵害物品の譲渡数量に合理的な実施料を乗じて得た金額(即ち、9,700 個×合理的な実施料)を損害額として請求できるように許容することで特許権の保護を強化した。本制度は 2020 年 12 月10 日以降の損害賠償請求から適用される。
▶ 特許権侵害に基づく損害賠償の請求が増加する見込み
韓国では、他人の特許権を侵害した行為に故意があったと認定されれば、損害額として認められた金額の 3 倍を超えない範囲内で損害賠償額が決められる、いわゆる『懲罰的損害賠償制度』が昨年より施行中である。特許権侵害に基づく損害賠償請求額の拡大に関する今回の法改正は、既に施行中の『懲罰的損害賠償制度』と共に、特許権者にとって一層信頼できる特許制度の構築に近づくものと言わざるを得ない。先進 5 カ国特許庁(IP5:韓国、日本、米国、欧州、中国)のうち、特許権者の生産能力を超える侵害品にまで損害賠償を許容する制度と懲罰的損害賠償に係る制度との両制度を全て明文化している国は韓国が唯一である。それゆえ、これから韓国で特許侵害に基づく損害賠償の請求がかなり増加すると見込まれる。