2020年8月27日ソウル中央地方裁判所は、電気車バッテリー業界の先頭企業であるSKイノベーションとLG化学が2014年締結した合意書に含まれた韓国特許に関連した不提訴義務は対応米国特許には適用されないと判断した。
▶ 事件の背景
2014年SKイノベーションとLG化学とは2011年から進められてきたセラミックコーティング分離膜に係る韓国特許(韓国特許登録 第775310号、以下、「310特許」という)に関連した紛争を終結することに合意し、不提訴義務が含まれた合意書を締結した。合意書の内容中、不提訴義務に関連した部分は次のとおりである。
『被告会社と原告会社は、各社の長期的成長及び発展のために、2011年から進められてきたセラミックコーティング分離膜に係る韓国特許登録 第775310号(以下、「対象特許」という)に関連した全ての訴訟及び紛争を終結することとし、下記のとおり合意する。
…(中略)…
4.被告会社と原告会社は、対象特許に関連して、今後、直接又は系列会社を通じて国内/国外において相互間に特許権侵害差止や損害賠償の請求あるいは特許無効を主張する争訟をしないこととする。』
しかし、2019年4月LG化学は、営業秘密侵害を理由にして米国国際貿易委員会(ITC)とデラウェア連邦地方裁判所にSKイノベーションを相手取って訴訟を起こし、これが電気車バッテリー業界のライバルである両社間の第2次特許戦争を引き起こす導火線となった。
ひいては、LG化学は2019年9月26日付でSKイノベーションのリチウムイオンバッテリーセル及び関連製品が310特許の対応米国特許3件を含む計5件のLG化学の米国特許を侵害したとの理由で米国国際貿易委員会(ITC)に不公正貿易行為調査を申請し、同日付で同じLG化学米国特許に対する侵害を根拠にして米国デラウェア連邦地方裁判所に特許権侵害差止訴訟も提起した。
これに対し、SKイノベーションは310特許の対応米国特許に対する侵害を根拠にした米国でのLG化学の提訴行為は2014年両社間で締結した不提訴合意を違反すると主張しつつ、2019年10月22日付でソウル中央地方裁判所に損害賠償等を求める訴訟を提起した。
▶ 裁判所の判決
本事件の主な争点は、2014年両社が締結した合意書に含まれた不提訴合意の対象が310特許に限定されるのか、それとも310特許の対応米国特許にまで含まれるのかである。
かかる争点に対して、ソウル中央地方裁判所は、2014年両社間で締結した合意書の不提訴義務は310特許に限定されるものであって、対応米国特許にまで拡張されるものではないと判示し、その理由は下記(イ)~(ハ)のとおりである:
(イ) 「セラミックコーティング分離膜に係る韓国特許登録 第775310号(以下、「対象特許」という)に関連した全ての訴訟及び紛争を終結する」との合意書の前書きの記載からみると、合意の対象となる特許を「対象特許」と前書きにて限定しているので、合意の対象特許が310特許であることは一応文言上明らかである。
(ロ) また、当事者の不提訴義務を規定した合意書の第4項においても「対象特許に関連して」と規定しているので、合意に応じて不提訴義務を負担する範囲は310特許に限定して解することが文脈上自然である。SKイノベーションの主張のように、合意書の第4項のうち、「国内/国外において」との文句が含まれたとの理由で、「対象特許に関連して」の意味を310特許の対応米国特許まで拡張することは「対象特許に関連して」における「関連して」を実際には「関連した米国特許」に解釈することなので、その文言上の意味を極めて拡張することであるばかりか、文言の客観的な意味とは異なる解釈をすることである。
(ハ) さらに、交渉過程で、SKイノベーションがLG化学に送付した合意書の草案には第4項の不提訴義務に対して、「特許技術及び特許技術と密接に連関された技術に関連して」と包括的に書いてあったが、LG化学は合意書の草案を修正して310特許(即ち、「対象特許」)のみに限定して不提訴義務を負わせることにし、修正された合意書の草案を返信した事実から鑑みると、LG化学が不提訴義務賦課の対象を310特許に限定しようと意図したことをSKイノベーションは認識し、これに同意したと見られる。
SKイノベーションはソウル中央地方裁判所の判決に不服してソウル高等裁判所に控訴し、控訴裁判所の判決は2021年半ば頃に下されると見込まれる。