最近、韓国特許審判院は、出願過程において、請求項の補正なしに意見書を通じた意見陳述があった場合でも、出願明細書に書いてある比較データを参酌して出願人がかかる請求項に記載された発明の構成より劣った構成を権利範囲から意識的に除外しようとする意思があったと認定できる場合は、包袋禁反言の法理を適用できると判断した(特許審判院2020.9.22.付 2020Dang428 権利範囲確認審判の審決;特許法院に訴係属中)。
▶ 事件の背景
イ.本件特許発明及び審査経過
本件特許発明は、患者の手術看護または鎮静作用のために使用されるデクスメデトミジンのプレミックス剤形に関するものである。本件特許出願の審査過程で出願人は、患者に投与する前に希釈されなければならない100㎍/㎖の濃縮物剤形として提供されるデクスメデトミジン剤形を開示する先行文献に基づく進歩性欠如の拒絶理由に対して、出願発明は使用濃度(例えば、4㎍/㎖)に予め希釈された完成品の形態であって、すぐに投与できるプレミックス剤形である点に特徴があると述べながら、請求項1を次のように補正した(下線部分が補正された事項である):
【請求項1】
封止ガラス容器内に配置された0.005㎍/㎖~50㎍/㎖濃度のデクスメデトミジンまたはその製薬上許容される塩を含む、被験体に非経口投与のための使用準備済み(ready to use)の液状医薬組成物であって、希釈する必要なしに被験体に投与される、使用準備済みの液状医薬組成物。
意見書で、出願人は先行文献に容器に関する事項が開示されていないにも拘わらず、意見書でガラス容器に保存されたプレミックス組成物はプラスチック、CR3エラストマーコポリエステルエーテルまたはPVC容器に保存されたものに比べて、5ヶ月の保存期間後により高いレベルの効能を保持したと主張し、安定性の面でガラス容器の長所を特に強調した後、本件特許発明は登録された。
ロ.消極的権利範囲確認審判
特許権者の競合他社であるA社は、特許権者を相手取って自身が実施しようとする製品(以下、「確認対象発明」)が本件特許の権利範囲に属さないという判断を求める消極的な権利範囲確認審判を提起した。確認対象発明は、デクスメデトミジンの液体プレミックス組成物が封止ガラス容器の代わりに封止ポリプロピレン容器内に配置された点においてのみ本件特許請求項1と差異がある。
本件では、かかる容器の差異が均等関係にあるか否か、特にポリプロピレン容器が出願過程で意識的に除外されたと認定できるかどうかが問題となった。
これに関して特許権者は、ガラスと併せてポリプロピレンが注射剤の容器として使用される代表的な材質であるため、ポリプロピレン容器がガラス容器の均等物であり;請求項1の発明には出願時から「ガラス容器」という構成が記載されており、出願過程で容器の構成については補正されたことはなく、ポリプロピレン容器が先行技術として提示されたこともないため、本件特許発明の均等範囲からポリプロピレン容器を意識的に排除す
るという行為は何もなかった。意見書では「CR3またはPVC容器」という特定の容器と比べてガラス容器の安定性が良いという旨を主張しただけであり、安定性の効果の面において「すべてのプラスチック容器」や「ポリプロピレン容器」をガラス容器と比較したことはないと主張した。
▶ 特許審判院の審決
特許審判院は、確認対象発明のポリプロピレン容器は出願過程中に意識的に除外されたものであるため、確認対象発明は本件特許の権利範囲に属さないという審決を下した。具体的に特許審判院は、次のように本件特許の明細書の実施例1を考慮した際、請求項1に記載されたガラス容器の構成が出願過程で補正されたことはないが、意見書の陳述を通じてポリプロピレン容器を権利範囲から除外しようとする意思が明らかに存在したと判断した。
(i) 実施例1を見ると、包装容器の適合性試験に使用された材質としてガラスアンプル、ガラスバイアル、PVC可撓性容器、CR3可撓性容器、VisIV(商標名)プラスチック可撓性容器及びAnsyr(登録商標)注射器が記載されており、ここでVisIVプラスチック可撓性容器はポリプロピレンの材質でできている。
(ii) 一方、実施例1の表1によると、ガラス容器は5ヶ月間の保存後も98%以上の効能を保持するのに対し、材質がポリプロピレンであるVisIVプラスチック可撓性容器は2週間後に95%、5ヶ月後に90%程度の効能を示し、また、実施例1の表2はVisIV容器において2週間後に相当な量の不純物が観察されたという結果を示したことから、ポリプロピレン容器が保存安定性の面でガラス容器に比べ劣っている。したがって、ポリプロピレン容器を除外しガラス容器を意識的に選択した特許権者の意思は明らかである。
かかる判断に基づいて、特許審判院は、ポリプロピレン容器に配置された確認対象発明が請求項1の権利範囲に属さないという結論に至った。
特許審判院の審決に不服した特許権者の訴は現在特許法院に係属中である。