韓国特許庁が推進している韓国型証拠収集制度、いわゆる「韓国型ディスカバリー」制度に関する特許法の一部改正法律案(以下、「改正案」という)が国会に提出され審議中である。ここに、韓国型ディスカバリー制度の導入背景及び改正案の内容について紹介する。
▶ 現行の証拠収集手続き及びその限界
韓国では米国とは異なり、事実判断は裁判所の専権事項であり、それゆえ現行の民事訴訟法による証拠収集も全て裁判所の主導で行われる。即ち、当事者が訴提起の前・後に証拠保全の申立てをすると、裁判官が証拠調べを命じ、その結果を保全する方式で証拠収集が行われる。特許侵害訴訟では、資料提出命令、証人尋問、被疑侵害者の居所での証拠保全等により証拠を収集し、鑑定人が被疑侵害品に対して実験や分析をすることもある。
特許侵害訴訟においては侵害の証明や損害額算定に必要な資料の大部分が被疑侵害者側にある場合が多いため、民事訴訟法上の証拠保全や特許法上の資料提出命令制度を活用することが考えられる。
民事訴訟法上の証拠保全制度は、当事者が予め証拠調べを行わなければ証拠が損なわれるなど、その証拠を使用することが困難な事情がある旨を裁判所に示すことにより、提訴後はもちろん提訴前であっても裁判所の証拠調べができるようにする制度である。しかしながら、証拠保全の要件といえる相手方の証拠の毀損の容易性及び蓋然性を立証することが実質的に難しいので、証拠保全の申立てが受け入れられる場合は非常にまれである。
韓国特許法上の資料提出命令制度は、民事訴訟法上の文書提出命令制度の特則であって、侵害訴訟において当事者の申立てにより相手方に当該侵害の証明または侵害による損害額の算定に必要な資料の提出を裁判所が命じることができる制度である。たとえ提出すべき資料が営業秘密に該当するとしても、侵害の証明または損害額算定に必ず必要なときは資料の提出を拒むことができない。この場合、裁判所は、提出命令の目的内で閲覧可能な範囲または閲覧可能な者を指定しなければならない。また、当事者が正当な理由なしに資料提出命令に従わない場合、裁判所は資料の記載に対する相手方の主張が真実であると認定することができる。とろこが、実際の訴訟過程で資料提出命令に従わないとき、それを効果的に制裁する手段が不足し、営業秘密が十分に保護されるのかに関わる資料提出側の懸念もあるため、資料提出命令制度が実効的な証拠調べの手続きとしては不十分であるという点が持続的に指摘されてきた。
▶ 韓国型ディスカバリー制度に関する法案
そこで、特許権者の証明負担を緩和して紛争の早期解決のため、韓国特許庁は韓国の司法体系に適合したいわゆる「韓国型ディスカバリー制度」の導入を推進している。「韓国型ディスカバリー制度」は特許権者が特許侵害及び損害額の立証のための証拠収集を容易にすることで、特許訴訟の実効性のある紛争解決手段を設けるためのものである。
(1) 専門家による事実調査制度
この改正案に盛り込まれている主要事項のうち一つは専門家による事実調査制度である。特許権関連の侵害訴訟において、裁判所は職権または当事者の申立てにより関連分野の専門家を指定し、その専門家が相手側の事務室や工場等を尋ねて調査を受けるべき者等に質問をするか、資料の閲覧・複写、装置の作動・計測・実験などの必要な調査を行うことができる。
この際、裁判所は、下記の事項を考慮しなければならない。
・相手方当事者が特許権を侵害した可能性があるか否か
・ 侵害の証明や侵害による損害額算定に必要か否か
・ 調査の必要性に比べて相手方当事者の負担が相当なものか否か
同改正案には相手方当事者の営業秘密流出のリスクを緩
和するべく、下記のような措置が盛り込まれている。
・ 裁判所から指定された専門家は、裁判所が指定した期限内に調査結果報告書を裁判所へ提出し、その調査内容は秘密として保持しなければならない。
・ 裁判所は、調査を受けた者にその調査結果報告書を先に閲覧させ、営業秘密等が調査結果報告書に含まれている旨主張がある場合には、侵害の立証や損害額算定に係わらない営業秘密等に対して、それを削除することを専門家に命じなければならない。
・特許権者は、前期の過程で修正された調査結果報告書を閲覧し、証拠として申立てることができる。
事実調査制度の実効性を高め、且つ、営業秘密の流出に係る懸念を一層緩和するため、改正案には下記の措置がさらに盛り込まれている。
・専門家による調査を拒否・妨害する場合、裁判所は資料の記載により証明しようとする事実に関する当事者の主張が真実であると認定することができ、調査を拒否・妨害した法人には1億ウォン以下、法人の役員、従業者、その他の利害関係人には5千万ウォン以下の過料を科すことができる。
・ 秘密として保持しなければならない調査内容を専門家が漏らした場合は、1年以下の懲役又は1千万ウォン以下の罰金に処することができる。
(2) 資料保全命令の新設及び資料毀損等に対する制裁
改正案は、民事訴訟法上の証拠保全の特則として、資料保全命令制度を新設し、また資料毀損などに対する制裁手段を設けている。つまり、裁判所は特許侵害訴訟が提起される可能性が高い場合、或いは、訴訟が提起された場合、職権または当事者の申立てにより侵害の証明または損害額算定に必要な資料を相手方が毀損または使用できないようにしないよう、資料保全を命じることができる。この際、特許権者は資料保全命令の対象となる資料を特定するに十分な事実及び資料保全を命じなければ申立人に回復できない損害が発生する恐れがあることを裁判所に疎明しなければならない。
また、相手側が当事者の使用を妨げる目的をもって当該侵害の証明または損害額算定に必要な資料を毀損し、またはこれを使用できないようにした場合、裁判所は資料の記載により証明しようとする事実に関する当事者の主張を真実であると認定することができる。
順調に進められれば、韓国型ディスカバリーに係る改正案は来年初頃に国会で通過され、公布日より6ヶ月が経過した日から施行される見通しである。