最近、韓国大法院は、特許権侵害差止めを求める事件において、「特許請求の範囲」の記載のみでその技術的範囲が明白である場合には、明細書の他の記載に基づいて特許請求の範囲の記載を制限解釈してはならないと述べ、特許クレームの解釈に関する基準を再確認する判決を下した(大法院2021.1.14.言渡し2017Da231829判決)。
▶ 事件の背景
韓国特許第905128号(以下、「本件特許」という)は、蒸着工程で用いられるプラズマ装置において、内部のプラズマ汚染の防止に関するものであって、特許請求の範囲の第1項及び図1は下記のとおりである。
【請求項1】
工程チャンバの排気管に連結され、上記工程チャンバ内のガスを引き込ませてプラズマ状態にする空間を形成するセルフプラズマチャンバの汚染防止装置において、上記工程チャンバから引き込まれた汚染誘発物質がセルフプラズマチャンバのウインドウに向かう直線経路から外れるように電磁界を発生させる電磁界発生部、及び上記セルフプラズマチャンバからの光信号が直線経路を介して上記ウインドウに達するように中央に貫通孔が形成された、上記発生された電磁界により上記直線経路から外れた汚染誘発物質が上記セルフプラズマチャンバのウインドウまで達することを遮断するための少なくとも一つ以上の遮断壁、を含むことを特徴とするセルフプラズマチャンバの汚染防止装置。
【図1】
原告である特許権者は、被告の実施製品が本件特許の第1項発明の権利範囲に属するので、被告の実施行為は原告特許権の侵害に該当すると主張した。その一方、被告は、被告の実施製品における遮断壁は磁性体内部に形成されていることに対し、本件第1項発明の遮断壁(130)は、本件特許の図から分かるように、電磁界発生部(120)と互いに離隔して後方に形成されているので、被告の実施製品とは異なり、被告の製品は本件特許発明の権利範囲に属さない旨主張をした。
▶ 特許法院の判決
特許法院は、本件特許の第1項発明に係るクレームはもちろん発明の詳細な説明においても、遮断壁が直線経路から外れた汚染誘発物質がチャンバのウインドウまで達することを遮断すると記載されているだけであって遮断壁の形成位置について限定しておらず、本件特許の明細書の図に示されている内容は一つの実施例に過ぎないため、それが特許クレームの記載を制限解釈する根拠にはならないと判示しつつ、被告の実施製品は遮断壁の位置が異なるので本件特許発明の権利範囲に属さない旨被告の主張を排斥した。
▶ 大法院の判決
上告審にて大法院は、特許発明の保護範囲は特許請求の範囲に記載された事項に基づいて定められるものであり、但し、その記載のみをもって特許発明の技術的構成が分かることができないか、若しくはそれを分かることができるとしても技術的範囲を確定することができない場合には、明細書の他の記載に基づいて補充をすることはできるとはいえ、その場合にも明細書の他の記載に基づいて特許請求の範囲を拡張解釈することは許されないことは勿論、特許請求の範囲の記載のみをもって技術的範囲が明白である場合には、明細書の他の記載に基づいて特許請求の範囲の記載を制限解釈してはならないことを明らかにした(大法院2011.2.10.言渡し2010Hu2377判決等参照)。
かかる基準に基づいて大法院は、原審の判断、即ち、本件特許発明のクレームにて電磁界発生部に対する遮断壁の相対位置を限定していない以上、電磁界発生部が遮断壁よりも空間的に前に位置すると制限して解釈することはできず、本件特許発明の明細書の図に示されている内容は一つの実施例に過ぎないため、それが特許クレームの範囲を制限解釈する根拠にはならないという判断を支持しながら、結論的に被告の上告を棄却した。