物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている、いわゆる「PBPクレーム」は、物の発明を物の構造又は物理的特徴のみで定義することが困難である場合、これを特定するために使用されている。PBPクレームは、請求の対象を物の構造でなくその製造過程により定義するため、特許要件を判断する際に、或いは登録後に侵害可否を判断する際に請求項の解釈を巡って齟齬がある。大きくは、PBPクレームも一応物の発明である以上、製造方法を考慮せずに最終生成物それ自体の特徴のみで限定すべきであるという立場と、クレームの一般的な解釈手法に応じて製造方法もクレームに記載された限定事項の一つとして考慮するべきであるという立場とに分けられる。
これに関し、大法院は、2015年全員合議体判決にて、製造方法が記載された物の発明における新規性及び進歩性は、製造方法の記載を含んでクレームの全ての記載により特定される構造や性質に基づいて判断すべきであると述べ、PBPクレームにおける特許要件の判断基準を明らかにした(大法院2015.1.22.言渡し2011Hu927)。
更に大法院は、最近PBPクレームにおける権利範囲の解釈が問題となった事案においても特許要件を判断する際と同じ判断基準を適用することにより、PBPクレームの解釈を巡る議論を終わらせた(大法院2021.1.28.言渡し2020Hu11059)。
▶ 事案の背景
韓国特許第1399514号は、ポラプレジンクを含有する安定した錠剤の剤形に関するものであって、そのうち請求項1は、ポラプレジンクを含有する錠剤の剤形において、有効成分として粒度累積分布で最大粒度に対し90%に該当する粒度(D90)が500μm以下であるポラプレジンクを含み、直打法で製造されたものと限定している。
特許権者の競争社であるA社は、特許権者を相手取って自分の製品(以下、「確認対象発明」)が本件特許の権利範囲に属さない旨判断を求める消極的な権利範囲確認審判を請求した。A社は特許発明と確認対象発明はその剤錠方法が直打法と湿式法とに区分けられ、直打法と湿式法とを用いて製造した錠剤は互いに異なる構造及び性質を有するため、確認対象発明は特許発明の権利範囲に属さない旨主張をした。
本事案では製造方法が記載された物の発明の請求項において製造方法、即ち、剤形の製造方法が物の発明の権利範囲を限定する要因になり得るか否かが問題となった。
構成 | 本件特許第1項発明 | 確認対象発明 | |
1 | D90が500μm以下である | D90が30μm以下である | |
2 | ポラプレジンクを含む | ポラプレジンクを主成分とする | |
3 | 直打法で製造された | 湿式法で製造された | |
4 | 錠剤 | 錠剤 |
▶ 特許法院の判決
原審は、たとえ確認対象発明の錠剤に含まれているポラプレジンクが特許発明において求める粒子サイズの範囲内に属するとはいえ、確認対象発明が特許発明と異なる製造方法を用いて錠剤を生産するにより、特許発明と異なる構造及び特性、例えば、異なる流動性、圧縮性、硬度、溶出率等を有するので、本件第1項の権利範囲に属さないと判断した。
▶ 大法院の判決
大法院は次のような理由で確認対象発明が特許発明の権利範囲に属さない旨判断した原審判決を是認した:
「クレームに製造方法の記載を含んでいる物の発明の場合、クレームに記載された製造方法は、最終生産物である物の構造や性質を特定する一つの手段としてその意味を有するだけである。従って、製造方法が記載された物の発明の権利範囲に属するか否かを判断するにあたってその技術的構成を製造方法それ自体に限定して把握するものではなく、製造方法の記載を含んでクレームの全ての記載により特定される構造や性質を有する物として把握して確認対象発明と対比しなければならない。」
▶ 本判決の意義
PBPクレームに対する取り扱いは国によって多少の違いがあり、例えば、米国では特許要件の判断時と権利範囲の判断時とにおいてPBPクレームの解釈基準を異にしている。ところが、今般の大法院判決では、特許要件を判断する際に適用されるクレームの解釈基準が権利範囲を判断する際にも同様に適用されることを明らかにし、PBPクレームの解釈基準を一元化したことに意義がある。