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韓国貿易委員会(KTC)を通じる知的財産権の行使

  • December 31, 2021
  • 朴賢子弁理士 / 李桂榮弁理士

本稿の著者の一人である李桂榮(Kyeyoung Lee。第一特許法人のパートナ弁理士。)が、3年任期の韓国貿易委員会の委員として任命された。ここでは韓国貿易委員会(KTC)における知的財産権の救済手段とその手続について紹介する 

 


▶ KTCの組織
 


KTCは、「不公正貿易行為の調査及び産業被害救済に関する法律」(以下、「不公正貿易調査法」と称する。)に基づき、ダンピング、収入補助金及び知的財産権の侵害等の不公正貿易行為から産業を保護する準司法機関である。


KTCは大統領が任命する9人の委員から構成されており、「貿易救済政策課」、「産業被害調査課」、「ダンピング調査課」、及び「不公正貿易調査課」の四課からなる貿易調査室により事務支援を受けている。

貿易調査室の4課のうち「不公正貿易調査課」では、知的財産権侵害による不公正貿易行為を取り扱っており、その機能は、(i)知的財産権の侵害、原産地規定の違反、その他の国際貿易秩序を害する行為等の不公正貿易行為を調査し、(ii)国際貿易が国内産業の競争力に及ぼす影響について調査することである。 

 


▶ 
貿易救済制度


WTO協定、不公正貿易調査法および関税法に基づいて国内産業を保護するための手段として、不公正貿易行為により国内産業が被害を受けるか、その恐れがある場合、被害当事者はKTCに、(i)アンチダンピング関税賦課、(ii)相殺関税賦課、(iii)保護措置の履行、若しくは(iv)不公正貿易行為に対する調査を求める申請をすることができる。

 


▶ 
不公正貿易行為の調査 


貿易救済制度の一つである「不公正貿易行為に対する調査」は、知的財産権侵害商品の輸出入の際に利用できる手段であって、以下、詳細に検討する。


1.不公正貿易行為の種類

不公正貿易調査法第4条第1項各号には、(i)~(iv)の行為が不公正貿易行為として挙げられている。

(i) 知的財産権を侵害する物品を国内に輸入するか、輸入した物品を国内で販売し、若しくは知的財産権を侵害する物品を輸出するか、輸出のために国内で製造する行為
(ii) 原産地表示が虚偽・誤認・毀損・変造された物品、又は原産地表示対象であるにも原産地表示がされていない物品を輸出又は輸入する行為
(iii) 輸 出入品の品質を虚偽または誇張して表示する行為;及び
(iv) 契約内容と著しく異なる物品を輸出入することで輸出入を妨害して紛争を起こす行為

2.不公正貿易行為の調査手続

何人も不公正貿易行為があった日から2年以内にKTCに不公正貿易行為の調査をすることを申請することができる。また、不公正貿易行為に係る合理的な疑いがある場合、KTCは必要に応じて職権により調査をすることもできる。

申請人は、(i)申請人の知的財産権が有効かつ行使できるものであり、(ii)申請人の知的財産権が被申請人によって侵害されており、(iii)被申請人が輸出入等の不公正貿易行為に当たる行為をし、(iv)その行為が申請前の2年内にあったことを証明しなければならない。

侵害行為に対する具体的な証拠は追ってKTCが税関に要請して補完をすることができるので、調査開始のためには情況証拠で充分である。調査開始の可否は申請日から20日以内に決定する(法第5条)。

不公正貿易行為によって回復できない被害を受けた者又はその恐れがある者はKTCに、当該物品等の輸出、輸入、販売、製造行為の中止命令、並びに当該物品、部品、原料及び/又は製造施設に対する押収又は差止命令等の暫定措置を求める申請をすることができる(法第7条)。

不公正貿易行為の調査は、調査開始の決定後6ヶ月以内に速やかに完了することを原則とするが、(i)調査中の不公正貿易行為に係る訴訟や特許審判等の紛争調停手続が進行中の場合、(ii)申請人又は被申請人が正当な理由を提示してその期間延長を申請する場合、(iii)その他、やむを得ない理由で期間延長が必要であると認められる場合には、調査期間を2ヶ月ずつ2回にわたって最大4ヶ月まで延長することができる(法第9条)。通常、調査の着手から最終判定まで6~10ヶ月程が所要される。



[調査手続]



▶ 
是正および制裁措置


KTCは不公正貿易行為があると判定すれば、是正措置又は課徴金の納付を命ずることができる。是正措置には、(i)当該物品等の輸出・輸入・販売・製造行為の中止、(ii)当該物品等の搬入排除又は廃棄処分、(iii)訂正広告、(iv)法違反によりKTCから是正命令を受けた事実の公表、(v)その他、不公正貿易行為の是正のために必要な措置がある(法第10条)。


暫定措置命令又は是正措置命令に違反した者は、3年以下の懲役又は3千万ウォン以下の罰金に処する(法第40条第2項)。

KTCは、(i)不公正貿易行為が、知的財産権侵害行為、品質などを偽りで表示するか誇張する行為、及び輸出入を妨害する行為である場合、当該行為者に最近3年間の平均年間取引金額の30%以下の課徴金の納付を命ずることができ、(ii)不公正貿易行為が原産地虚偽表示または誤認させる表示行為である場合、3億ウォン以下の課徴金の納付を命ずることができる(法第11条)。

KTCの処分に不服がある者は、暫定措置の場合にはその処分の告知を受けた日から14日以内に、是正措置及び課徴金の場合にはその処分の告知を受けた日から30日以内にKTCへ異議を申立てることができる。

KTCは、異議申立日から60日以内に判定すべきであり、ただ、調査過程で新たな証拠提出などやむを得ない理由で判定できない場合には30日まで延長をすることができる。異議申立人は、その異議申立とは別に、行政審判又は行政訴訟を提起することができる(法第14条)。なお、行政訴訟を審理する裁判所から、判決が出るまでKTCの判定執行を停止する旨の命令がない限り、KTCの判定は執行可能である。

 


▶ 
知的財産権侵害に対するKTCの手続のメリット 


KTCの手続は、調査開始日から約10ヶ月以内に申請人が判定結果を受けることができるため、迅速且つ簡単であり、低コストで行うことができる。特に、KTCの手続は国境を越えて知的財産権を侵害する商品に対する水際措置をとるとき有用である。但し、知的財産権者が損害賠償を受けるためには、結局、裁判手続をとらなければならない。 


KTCの中止命令の是正措置は仮処分命令と同じ効力を有し、控訴審にてそれが解除されない限り本案命令と同じ効力を有する。
KTCは被申請物品に対する知的財産権侵害事実を見つけた場合、供給者、輸入者または販売者の名義を問わず同じ物品を取引する者に侵害商品の市場進入差止命令を執行することができる。但し、それを執行するためには、KTCから彼らの扱う物と侵害物品とが同一なものである旨の認定を受けることが前提となる。

KTCは、調査過程において税関へ被申請物品の輸入量に対する情報を提供することを要請しており、かかる情報は将来金銭的損害額を決定する際に有用である。

被申請物品の安定的な供給を希望する顧客は、KTCの判定による迅速且つ強力な効果に影響を受けると見込まれる。