INSIGHTS

第一特許法人は、IP最新動向及び法律情報を定期的に提供します。

ニュースレター

韓国大法院、「原出願時に公知例外主張をしなかったとしても分割出願時に公知例外主張が可能である」と認定

  • December 30, 2022
  • 金旻志弁護士 / 千鎭源弁理士

最近、大法院は、原出願時に公知例外主張をしなかったとしても、その分割出願で公知例外主張ができる旨判決を下した(大法院2022.8.31.宣告2022フ11479判決)。これにより、出願人が原出願時に(意図的に又はミスにより)公知例外主張をしなかったとしても、分割出願時に新たな公知例外主張を通じて公知例外の効果が認められることになった。 

 

 

 

事件の背景 

 

本事件の出願人は、「シーケンス制御回路の配線方法」を名称とする発明を2014年12月23日付で特許出願(以下、「原出願」という)し、原出願当時には特許法第30条第1項で定めた公知例外主張をしなかった。また、審査過程において特許庁審査官は2014年8月頃に公開された出願人本人の修士学位論文を先行発明として引用し、原出願の新規性及び進歩性が否定されるとの旨で拒絶理由を通知した。 

 

出願人は2016年8月30日付で原出願から本件出願発明を分割出願として出願し、上記先行発明に対して公知例外主張をした[原出願の出願日は2014年12月23日であったため、(一定要件下で公知例外主張を追って補完することを許容する)2015年7月29日付で施行された改正特許法の適用対象ではなく、これにより原出願において公知例外主張を追加できる方法はなかった]。 

 

しかしながら、特許庁審査官は本件出願発明に対する出願人の公知例外主張を排斥し、出願人の論文によって本件特許出願の新規性及び進歩性が否定されるとの旨で拒絶決定を下した。出願人は、ここに不服して特許審判院に拒絶決定不服審判を請求し、請求が棄却された後、特許法院に審決取消訴訟を提起したものの、特許審判院及び特許法院も原出願で公知例外主張をしなかった以上、分割出願での公知例外主張は原出願日を基準にした公知例外の効果が認められないため、本件特許出願に対する公知例外主張が排斥されると判断した。 

 

 

 公知例外主張に係る規定 

 

公知例外主張に関して、韓国特許法第30条第1項第1号は、特許を受ける権利を有する者によってその発明が特許出願前に国内または国外で公知となったか、公然と実施される等により、特許法第29条第1項各号のいずれか一つに該当するようになった場合(以下、「自己公知」という)、その日から12ヶ月以内に特許出願をすればその特許出願された発明に対して新規性及び進歩性の規定を適用する際に、その自己公知された発明は第29条第1項各号の公知となった発明に該当しないものとみなすとして、公知例外の規定を置いている。なお、同条第2項は、公知例外主張は特許出願書にその旨を記載しなければならず、これを証明できる書類を特許出願日から30日以内に提出しなければならないと規定している。一方、2015年1月28日付で新設された同条第3項は、出願時に公知例外主張をしなくても一定期間、公知例外主張の旨を記載した書類やこれを証明できる書類を提出できる公知例外主張の補完制度を導入し、それは2015年7月29日以降に出願された案件に対して適用されている。 

 

分割出願に関して、韓国特許法第52条第2項は、分割出願があった場合、原出願日に出願したものとみなすという原則と、その例外として特許法第30条第2項の公知例外の主張時期、証明書類の提出期限については分割出願日を基準にすると定めている。これは公知例外の主張時期、証明書類の提出期限を原出願日に遡及する場合、分割出願時には既に経過した場合が多いためである。 

 

 

 特許法院の判決 

 

特許法院は、分割出願を通じて原出願の公知例外主張の欠陥を解消できるようにする場合、(i)特許法第30条第2項の規定が形骸化されるおそれがある点、(ii)2015年1月28日付で新設された特許法第30条第3項は出願人の単純なミスにより公知例外主張を欠落した場合、これを補正する機会を与えるためのものであるが、これを遡及適用する場合、法的安定性を阻害する恐れがあるので、2015年7月29日以降に出願された案件に対して適用するようにしたものと解釈すべきである点などを考慮すると、分割出願における公知例外の効果は、原出願時に当該手続を正当に踏んだ場合に限って分割出願においてもその手続を再び有効に踏んで承継できるというだけであり、2015年7月29日前の原出願に対して2015年7月29日以後に分割出願された案件の場合は、原出願時に公知例外主張の手続を欠落したとすれば、分割出願でそのような手続を踏んだとしても公知例外の効果を主張することはできないと判示した。 

 

 

 大法院の判決 

 

しかしながら、大法院は、公知例外および分割出願に係る規定の文言と内容、各制度の趣旨などに照らして、原出願で公知例外主張をしなかったとしても分割出願で適法な手順を遵守して公知例外主張をしたとすれば、公知例外の効果が認められるとみることが妥当であると判断した。 

 

具体的に、大法院は下記のようにその判断理由を明らかにした。 

 

(i) 特許法第52条第2項及び第30条第2項は、文言上では原出願における公知例外主張を、分割出願における公知例外主張を通じた原出願日を基準にした公知例外の効果の認定要件として定めていない。 

(ii) 分割出願は原出願当時の特許請求の範囲に記載されていないものの、原出願の最初明細書および図面に記載されている発明に対して後日権利化する必要性が生じた場合、これを保護するためのものであり、よって、原出願当時には特許請求の範囲が自己公知された内容と関係がなく公知例外主張をしなかったが、分割出願時の特許請求の範囲が自己公知された内容に含まれている場合があり得、かかる場合、原出願時に公知例外主張をしなかったとしても、分割出願で公知例外主張をして出願日遡及の効力を認める実質的な必要性がある。 

(iii) 分割出願は、記載事項の欠陷、具備書類の補完等を目的とする補正とは別の制度であり、特許法第52条の要件を満たすと許容される独立した出願であるので、2015年1月28日付で新設された特許法第30条第3項に基づく公知例外主張の補完制度の導入前後を問わず、原出願で公知例外主張をしなかった場合、分割出願における公知例外主張の許容可否は一貫して解析することが妥当である。 

(iv) 公知例外の規定が、特許法制定以降から現在に至るまでその例外の認定理由が拡大され、新規性だけでなく進歩性に関してもこれを適用し、その期間が6ヵ月から1年へ拡大されるなどの改正を通じて、出願人の発明者としての権利を実効的に保護するための制度として定着していることを考慮すると、分割出願で公知例外主張を通じて原出願日を基準にした公知例外の効果が認められることを制限する合理的理由は見つけ難い。 

 

 

 本判決の意義 

 

本判決によって特許出願人は、(i)出願時に特許法第30条第2項による公知例外主張、(ii)出願後に特許法第30条第3項による公知例外主張の補完手続を用いること以外にも、(iii)原出願において(意図的またはミスにより)公知例外主張をしなかったとしても、分割出願において新たな公知例外主張を通じて公知例外の効果が認められることになった。2022年12月に改訂予定である韓国特許庁の特許審査基準の改訂案も今回の大法院判決を反映して、原出願の出願日に関係なく分割出願における公知例外主張の申請を認めることを反映している 。