最近、韓国大法院は、パラメータを発明の構成要件として含む物の生産方法に関する特許において、パラメータを構成する多数の工程変数のうち、一部の工程変数の測定方法が明細書に記載されていない場合、当該特許は記載要件(発明の詳細な説明の実施可能要件及び特許請求の範囲の明確性要件 )に違反して無効であると判断した(大法院2024.1.11.宣告2020Hu10292判決)。
▶ 事件の背景
「多結晶シリコンの製造方法」という名称の本件特許の請求項1には、複数の工程変数の相関関係により定義されるパラメータを特定の数値範囲内に制御する構成要件が記載されていた。ところが、本件特許の明細書には、前記パラメータの数値範囲を確認するために求められる工程変数のうち、一部の工程変数(すなわち、反応器内の棒の体積、反応器壁の温度、及びガスの体積流量)の測定方法が記載されていなかった。
本件特許の無効に係る主な争点は、(i)本件特許の発明の詳細な説明が特許法第42条第3項第1号の実施可能要件(「発明の詳細な説明は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその発明を容易に実施することができるように明確かつ詳細に記載すること」)を満たすか否か、及び(ii)本件特許の特許請求の範囲が特許法第42条第4項第2号の明確性要件(「特許請求の範囲には発明が明確かつ簡潔に記載されていること」)を満たすか否かであった。
特許審判院及び特許法院は、いずれも本件特許が前記(i)及び(ii)の記載要件を満たしていないので、無効であると判断した。
▶ 大法院の判決
大法院は、下級審の判断を支持し、本件特許は特許法第42条第3項第1号の実施可能要件及び第42条第4項第2号の明確性要件に全て違反して無効であると判断した。その主な理由を記載要件別に検討すると、以下の通りである。
発明の詳細な説明の実施可能要件について
• 本件特許発明は、反応中に互いに密接な影響を及ぼし合う各工程変数の調節を通じて、パラメータが特定の数値範囲内に存在するように工程を行うことで、反応工程を最適化する効果を奏することをその技術的特徴とするので、反応中の工程変数の値が本件特許発明の実施に重要な技術的意味を有する。
• ところが、本件特許の発明の詳細な説明には、前記パラメータの数値範囲を決定するために必要な一部の工程変数の測定方法が記載されておらず、さらに提出された資料だけでは、通常の技術者が本件特許の優先日当時の技術水準で前記工程変数の測定方法や値を容易に把握できると見受け難い。
• したがって、通常の技術者が優先日当時の技術水準に照らして過度な実験や特殊な知識を付加せずには、発明の詳細な説明に記載された事項によってパラメータで特定された生産方法を使用することができないので、本件特許の明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明を容易に実施できるように明確かつ詳細に記載されたとは言えない。
特許請求の範囲の明確性要件について
• 発明が明確に記載されているか否かは、通常の技術者が発明の詳細な説明や図面等の記載と出願当時の技術常識を考慮して特許請求の範囲に記載された事項から特許を受けようとする発明を明確に把握できるか否かによって個別的に判断すべきである。
• 本件特許発明は、反応器内の棒の体積、反応器壁の温度、ガスの体積流量等の工程変数を含むパラメータで構成されているが、棒の体積、反応器壁の温度、ガスの体積流量の測定方法が明確ではないため、本件特許の特許請求の範囲は明確に記載されていない。
▶ 本判決の意義
最近、既存の生産方法を改良した発明について特許を取得するために、新たなパラメータを創出する方式が頻繁に活用されている。新たなパラメータは、従来技術に開示されていないため、新規性等の側面では有利な場合がある。
しかし、今回の大法院の判決から分かるように、パラメータを発明の構成要件とする、いわゆるパラメータ発明の場合、新規性及び進歩性の実体的要件と同様に発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載要件も特許の有効性に重要に考慮される。
もし、パラメータを構成する工程変数の測定方法を特許権者のみが把握できたにもかかわらず、発明の詳細な説明にその測定方法が記載されていなければ、第三者はそのようなパラメータ発明を理解するか、再現することができないはずである。したがって、新たなパラメータを特許請求の範囲に記載する場合には、そのパラメータを構成する工程変数それぞれの技術的意味、測定方法、測定条件等を明細書に具体的かつ明確に記載しなければならない。