2019年7月9日から施行された改正韓国特許法では、特許権侵害が故意である場合、賠償額を損害額の最大3倍まで増額できるようにした。最近、韓国特許法院は、改正特許法の施行以後、故意の特許権侵害で利益を受けた侵害者に対してその利益の額の2倍を特許権者に賠償する旨判決を下した(特許法院2024.10.31.宣告2023Na11276判決;確定)。
▶ 事件の背景及び下級審法院の判断
原告は、調理容器用蓋に関する特許発明(以下、「本件特許発明」という)の特許権者である。被告は、2015年11月30日から2022年10月31日まで本件特許発明が適用された真空鍋(以下、「被告製品」という)を41万余個製造・販売し(以下、「本件侵害行為」という)、総501億ウォンを超える売上高を達成した。
釜山地方法院は、被告が原告の特許権を故意により侵害したと認定し、以下のとおり判決した。
• 改正法施行前までの期間(2015年11月30日から2019年7月8日まで;以下、「期間A」という)に対して、被告は特許法第128条第4項 に基づき、被告が本件侵害行為により受けた利益の額を原告に賠償すること。
• 改正法施行以後の期間(2019年7月9日から2022年10月31日まで、以下、「期間B」という)に対して、被告は本件侵害行為により受けた利益の額はもちろん、利益の額の50%を追加で賠償すること。
▶ 特許法院の判決
特許法院は、期間Aに関して被告の利益の額を損害賠償額として認めた下級審法院の判断を支持した。一方、期間Bに関して特許法院は、懲罰的損害賠償規定による追加賠償額を被告が受けた利益の額の100%に増額し、被告が受けた利益の額の2倍を賠償する旨判決を下した。特許法院の具体的な判断内容は以下のとおりである。
侵害行為の故意性の認定根拠
• 原告は被告の下請業者であり、被告は被告製品を生産する前に既に原告との取引関係を通じて本件特許発明の存在を知った。
• 被告は、原告と本件特許発明の使用に対する協議を進める過程で、原告の許諾なしで被告製品の生産・販売を開始し、協議が決裂した以後も引き続き被告製品を生産・販売した。
• 被告は、原告から特許権の侵害行為の差止めを求める旨の通告文を受領したにもかかわらず、引き続き侵害行為を行った。
• 被告は、自ら提起した無効審判及び消極的権利範囲確認審判が棄却された以後も引き続き侵害行為を行った。
• 以上を総合すると、被告は、本件特許発明の存在と、被告製品の生産・販売が原告の特許権を侵害するという事実を全て知りながら、本件侵害行為を続けたと認められる。
懲罰的損害賠償額の算定根拠
• 原告は、被告の下請業者の地位で被告に製品を納品してきた点、原告の会社規模(従業員数及び売上高)が被告に比して著しく小さい点等を考慮すると、被告は原告に対して優越的地位にあった。
• 前記故意性有無に関して検討した事実関係に照らしてみると、被告は特許権侵害に関して確定的故意をもって侵害行為を行った。
• 被告の増額賠償(懲罰的損害賠償)が適用される期間B中に侵害行為によって得た売上高の合計は約58億ウォンに達するところ、これは決して少ない金額ではない。
• 被告は、増額賠償規定が施行された以後も3年3ヵ月間に約7万5千個の被告製品を販売し続けたところ、その期間が長期間であり、回数も非常に多い。
• 被告が原告に本件特許発明の通常実施権の許諾を得るために何回も協議した事実があるものの、結局、協議が行われず、原告に対する補償が全くなかったという点、被告が提起した無効審判及び消極的権利範囲確認審判が全て棄却された以後に被告が被告製品の一部を回収した事実は認められるが、被告が販売した物量に比べて回収した物量が決して多いとは言えないという点などを総合してみると、被告が被害救済のための十分な努力をしたと見受け難い。
• 前記全ての事情を考慮し、特許法第128条第8項に基づく賠償額は、増額賠償が適用される期間Bの間に被告が得た利益の額の2倍と定める。
▶ 本判決の意義
今回の判決で特許法院は、故意の特許権侵害に対して懲罰的損害賠償条項を適用することで、特許権の保護を強化しようとする意志を明らかにした。特に、侵害者が受けた利益の2倍を賠償額として認めた今回の判決は、故意の特許権侵害を効果的に抑制する強力な先例として機能するはずである。
1. 特許法第128条第4項:特許権を侵害した者がその侵害行為により受けた利益の額を特許権者が被った損害の額と推定する。 2. 特許法第128条第8項:法院は、特許権を侵害した行為が故意であると認められる場合には、損害として認められた金額の3倍を超えない範囲で賠償額を定めることができる。 (参考までに、2024年8月21日から施行された改正特許法は、損害額の最大5倍まで賠償額が課せられると規定している)。 3. 特許法第128条第9項:第8項による賠償額を判断するときには、次の各号の事項を考慮しなければならない。 (1) 侵害行為をした者の優越的地位の有無、 (2) 故意又は損害発生の恐れを認識した程度、 (3) 侵害行為により特許権者が受けた被害規模、 (4) 侵害行為により侵害した者が得た経済的利益、 (5) 侵害行為の期間・回数等、 (6) 侵害行為による罰金、 (7) 侵害行為をした者の財産状態、 (8) 侵害行為をした者の被害救済の努力の程度 |