最近、韓国大法院は、既許可医薬品の有効成分にPEGが結合されたPEG化(PEGylation)誘導体は、存続期間延長を規定する法条項における「新物質」に該当しないため、これに関する医薬品発明は、許可等に基づく存続期間の延長対象発明に該当しない旨判決を下した(大法院2024.7.25.宣告2021Hu11070判決)。
▶ 関連法条項
特許法第89条によれば、特許発明を実施するために許可等を受けなければならない医薬品発明の場合、その許可等のために必要な有効性・安全性等の試験により特許発明を実施することができなかった期間に対して最大5年の期間までその特許権の存続期間を1回延長することができる。
これに関連して、特許法施行令は、存続期間の延長対象となる許可等が必要な医薬品発明は、「薬効を示す活性部分が新たな化学構造を有する新物質」を有効成分として製造した医薬品であって、最初に品目許可を受けた医薬品であると規定している。
前記施行令は、薬理効果を示す新物質を有効成分として含むものであって、最初に許可を受けた医薬品が存続期間延長の対象となり得ると規定しているが、既存の有効成分と薬理学的効果は同一であっても、活性が改善された誘導体に対しても存続期間延長が可能であるかについては明確に言及していない。
▶ 事件の背景
本件の特許権者は、インターフェロンベータ-1αを有効成分として再発性多発性硬化症の治療効果を有する医薬品に対して特許登録を受け、既に輸入品目許可を受けた。その後、特許権者は、ペグインターフェロンベータ-1α(PEG結合されたインターフェロンベータ-1α)に係る医薬品発明に対して特許登録を受け、ペグインターフェロンベータ-1αを有効成分として再発性多発性硬化症の治療効果を有する医薬品に対しても輸入品目許可を受けた。これに基づき、許可を受けるまでにかかった時間に対して本件医薬品特許に関して存続期間延長登録出願を行った。
特許庁は、再発性多発性硬化症の治療に薬理効果を示す活性部分がPEG部分ではない既存のインターフェロンベータ-1αであるため、PEG化誘導体は「新物質」を含む医薬品として認められないとの理由で存続期間延長登録出願に対して拒絶決定を下した。
特許審判院も同趣旨で特許庁の拒絶決定を維持し、原告はこれに不服して特許法院に出訴した。
▶ 特許法院の判決
特許審判院とは異なり特許法院は、インターフェロンベータ-1αにPEGが結合されることで体内半減期が増加する等、ペグインターフェロンベータ-1αの薬理効果が改善されたので、本件医薬品において薬理効果を示す活性部分はペグインターフェロンベータ-1αであり、これは新物質に該当するため、存続期間延長登録出願の基礎となり得ると判断し、延長登録出願を拒絶した本件審決を取り消した。
▶ 大法院の判決
しかし、大法院は、特許法院の判決を破棄して差し戻した。
まず、大法院は、前記特許法施行令が、延長登録の対象になる「新物質」の要件として、改善された活性を示す成分を有するか否かではなく、薬理効果を示す活性部分が新たな化学構造を有するか否かを規定している点に注目した。
これに基づいて大法院は、再発性多発性硬化症の治療に対する薬理効果を示す部分はPEG部分ではないインターフェロンベータ-1αであるため、PEG部分により活性が改善されたか否かにかかわらず、ペグインターフェロンベータ-1αを前記特許法施行令における新物質と見受けられないと判断した。
これによってインターフェロンベータ-1αのPEG化された形態は、存続期間の延長対象となり得る新物質として認められず、PEG化誘導体は存続期間の延長対象ではないと判決した。
▶ 本判決の意義
本判決は、医薬品発明の存続期間延長登録出願に関連して、「新物質」の範囲及び意味を明らかにした。
本判決から、誘導体の改善された活性は、当該誘導体に関する発明が特許を受けるための進歩性の認定の根拠とはなり得るものの、最初に許可を受けた既許可医薬品と比べて、薬理効果を示す活性部分が差別化されない限り、その特許の存続期間を延長するための要件は満たさないことが分かる。