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特許法院、臨床試験計画書が公開された医薬用途発明の新規性及び進歩性を認定

  • June 30, 2020
  • 孫世靖弁理士

最近、特許法院は、医薬用途を開示している臨床試験計画書の公開のみでは医薬用途発明の 新 規 性 及 び 進 歩 性 が 否 定 さ れ な い 旨 判 決 を 下 し た ( 特 許 法 院 2020.2.7. 宣 告2019Heo4147判決;大法院への上告放棄で確定)。



事件の背景 

 

イ.出願発明 

 

 

韓国特許出願第2014-7009738号は、ペルツズマブ、トラスツズマブ、ドセタキセル及びカルボプラチンの公知となった4種の抗癌剤を含み、患者の早期HER2-陽性乳癌のネオアジュバント療法(neoadjuvant therapy;手術の前に施される全身療法)として使用するための医薬組成物に関するものである。 

 


ロ.先行発明と臨床試験 

 

 

先行発明は、トラスツズマブ及び化学療法と併用するペルツズマブに関する第2相臨床試験の計画書であって、米国食品医薬品局の臨床情報公開ウェブサイトに掲載されたものである。先行発明は、ペルツズマブ、トラスツズマブ、ドセタキセル及びカルボプラチンの併用投与を開示しており、その研究の目的に関して「早期段階のHER2-陽性乳癌患者においてネオアジュバント治療法の耐薬性、安全性及び効能を評価するためのもの」と記載している。 

 

 

通常、第1相臨床試験は、候補物質の前臨床動物試験により得たデータに基づいて比較的限定された数の健康な人に薬物を投与して薬物の安全性を検討することを主目的とする。また、第2相臨床試験は、患者を対象として新薬の有効性と安全性を証明するために行う。ところが、既にその安全性や有効性が確認された個別抗癌剤をもって、その併用療法に対して許可を受ける場合には、前臨床試験または第1相臨床試験なしに、第2相臨床試験の結果のみでも安全性と有効性に関する資料として十分である。実際に、本件出願発明の併用療法については、先行発明の第2相臨床試験の前に前臨床または第1相臨床試験が行われなかった。 



 事件の経過

 

特許庁の審査官は、本件出願発明が先行発明により新規性及び進歩性が認められないとの理由で拒絶決定を下した。これに対する拒絶決定不服審判において特許審判院は、先行発明の医薬用途が早期HER2-陽性乳癌患者のネオアジュバント療法であって本件出願発明と共通し、その効果は医薬組成物の内在的属性を限定したものに過ぎないので、本件出願発明と先行発明は同一の構成の製剤を投与して同一の疾患を治療する点で相違がないと判断した上、審判請求を棄却した。出願人はこれに不服して特許法院に審決取消訴訟を提起した。



 特許法院の判決

 

特許法院では、早期段階のHER2-陽性乳癌患者を対象として4種の薬物を用いたネオアジュバント治療法の安全性及び効能を評価するとの先行発明の記載は、単にその用途に効果があるのかをこれから確認するとのことに過ぎないので、通常の技術者がその用途に関わる薬理効果を客観的に確認できる程度に具体的に開示している場合に該当しないと見なした。そこで、特許法院は、本件出願発明が先行発明によって新規性が否定されないと判断した。 

 

また、進歩性に関して、特許法院は、(i)先行発明には、臨床試験の実施によってどういう薬理効果が確認されたのかについて記載されておらず、また、本件出願発明に対して先行発明のような臨床試験を実施する前には、その効果を確認するための実験が行われたこともなく、(ii)4種の抗癌剤が各々抗癌剤として効果があるとの事実が公になっている事情のみをもって、これらを組み合わせて投与する場合、果たして単独で投与した場合よりも上昇した薬理効果を奏するのかについて通常の技術者が容易に予測できず、(iii)出願発明の明細書を通じて出願発明が他の組合の併用製剤に比べて顕著に優れた薬理効果を奏する点を把握できるところ、通常の技術者が先行発明から本件出願発明の優れた薬理効果を予測できないと判断した。 

 

それ故、特許法院は、本件出願発明が先行発明に対して新規性及び進歩性が否定されないと判示しつつ、原審審決を取り消した。本判決は大法院に上告されず、そのまま確定した。 



 本判決の意義 

 

本判決は、臨床試験計画書のような先行発明に関わる医薬用途が開示されていても、その薬理効果が客観的に確認できる程度に具体的に記載されていない場合は、医薬用途発明の新規性及び進歩性が否定されないことを明確にした。