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用途発明の特許に対する侵害有無を判断する基準

  • June 30, 2021
  • 李ウラム弁理士

用途発明(すなわち、従来から知られている物の新たな用途に関する発明;例えば特定の用途で限定した化合物又は組成物の発明)に関する特許権侵害差止仮処分申請事件において、ソウル中央地方法院は用途発明の特許侵害の有無を判断するための具体的な基準を提示した(ソウル中央地法2020年8月18日言渡し2020kahap20372決定;確定)。

 

 

 

▶ 事実関係

 

申請人は下記4件の特許権利者であり、これら特許請求の範囲にはすべて用途が記載されている。

 

 

    特許請求の範囲  
特許1   [請求項11]セリポリアラセラタ(Ceriporia lacerata)によって産生される細胞外多糖体若しくはこれを含むセリポリアラセラタの菌糸体培養液、この乾燥粉末又は抽出物(以下、「セリポリアラセラタによって産生される細胞外多糖体等」という)を有効成分として含有する、抗酸化用化粧料組成物  
特許2   [請求項1]セリポリアラセラタによって産生される細胞外多糖体等を有効成分として含有する、しわ改善用化粧料組成物  
特許3   [請求項1]セリポリアラセラタによって産生される細胞外多糖体等を有効成分として含有する、脱毛防止又は発毛促進用組成物  
特許4   [請求項1]セリポリアラセラタによって産生される細胞外多糖体等を有効成分として含有する、過剰免疫抑制用組成物
[請求項9]セリポリアラセラタによって産生される細胞外多糖体等を有効成分として含有する、自己免疫疾患の予防又は治療用薬学的組成物。
 

 

 

一方、被申請人はセリポリアラセラタ又はこれと遺伝的に同等な菌株が含有された石鹸、ローション、シャンプー及びコンディショナー(以下、「被申請人の製品」という)を製造して販売した。また、被申請人は製品の包装容器、製品の宣伝展示会、オンラインショッピングモール等を通じて、被申請人の製品の効能について様々な方法で宣伝を行った。



 当事者の主張及び争点

 

申請人は、(i)被申請人の製品がセリポリアラセラタ又はこれと遺伝的にほぼ同じ菌株を有効成分として含有しており、(ii)被申請人の製品が前記特許1~4の用途発明で定める特定の用途を1つ以上含んでいると主張し、特許権侵害差止仮処分申請を行った。(これに関して、申請人は被申請人を相手取って特許権侵害差止及び損害賠償を求める本案訴訟を提起し、前記本案訴訟は現在ソウル中央地方法院に係属中である。)

 

被申請人は、「申請人の特許1~4はすべて自然に存在する天然物の特定の用途に関する発明を権利範囲としているが、被申請人の製品は特許1~4で定める特定の用途として作られたものではなく、これら特許の用途発明の権利範囲に属さない」と反駁した。

 

結局、本件の争点は、被申請人の製品の用途が用途発明に記載された特定の用途に該当すると認められるか否かであった。



 ソウル中央地方法院の決定

 

本判決でソウル中央地方法院は、用途発明の特許の侵害有無を判断する基準について次のように述べた。

 

「用途発明とは、特定の物質が有するある特定の用途の新たな発見自体を技術的構成の一つとする発明であるため、用途発明に関する特許侵害が成立するためには問題となる侵害製品が単にその特定の物質を構成成分として含んでいるという点だけでなく、当該用途発明によって提示された特定の用途を、その主な用途又は付随的な用途として含んでいる点までを認めなければならない。このとき、侵害製品の用途に当該用途発明によって提示された用途が含まれているかどうかを判断するにあたっては、明細書の記載、侵害製品が属する製品群の一般的な機能と用途、侵害製品自体又はその包装紙、包装容器等に表記された侵害製品の機能ないし効能、侵害製品に関する広告ないし宣伝内容、需要者や取引者に客観的に認識される侵害製品の機能ないし効能等を総合的に考慮しなければならない。」

 

具体的に、ソウル中央地方法院は以下のような点を根拠に挙げ被申請人の製品が特許2~4で定める特定の用途を1つ以上含んでいると判断し、被申請人が被申請人の製品を生産・販売する行為は申請人の特許侵害に該当するという決定を下した。

 

- 申請人の特許の各明細書には組成物剤形に関する例示として石鹸、シャンプー又はリンス(コンディショナー)が記載されている。

- 被申請人は、製品の包装容器等に被申請人の製品がしわ改善、美白、しみ予防、アトピー予防、脱毛予防等の効能を有するという旨を表示・広告した。

- 被申請人は、展示会で被申請人の製品が保湿、美白、しわ改善、免疫力増進等の効能を有すると宣伝した。

- 被申請人はオンラインショッピングモールで被申請人の製品を「頭皮と毛髪の栄養供給にはたらきかける機能性シャンプー」と紹介しながら、「脱毛症状を緩和できる」と表示した。

申請人によって本案訴訟が提起された後、被申請人が広告又は宣伝媒体で脱毛防止及び発毛促進効果等に関する内容をすべて削除したと言っても、これを理由に被申請人の製品の客観的用途を別途に判断することはできない。

- 以上を総合すると、被申請人の製品はその客観的用途として、本件特許2~4で定める用途を1つ以上含んでいると認めることが妥当である。

 



 本決定の意義

 

本決定は、物を特定の用途に限定した用途発明の特許侵害が成立するためには、特許請求の範囲に記載された発明と侵害有無が問題となる製品との間で(i)物自体の同一性は勿論のこと、(ii)用途の同一性までを認めなければならないという点を明確にした。

 

特に、本決定では、前記用途の同一性判断に関して、侵害有無が問題となる製品の用途は、その製品の需要者や取引者に客観的に認識される製品の機能ないし効能等を総合的に考慮しなければならないと判示するとともに、製品の用途を客観的に特定する際に考慮すべき事項を具体的に提示したという点においてその意義がある。