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韓国大法院、特許権の保護範囲は原則的に特許請求の範囲の記載により判断することを再確認

  • September 30, 2021
  • 崔光勳弁理士 / 金旻志弁護士

最近、韓国大法院は、特許権侵害差止訴訟事件において、特許発明の保護範囲は、特許請求の範囲に記載された事項によって定められ、特許請求の範囲の記載自体で技術的範囲が明白な場合には明細書の他の記載により特許請求の範囲の記載を制限して解釈することは許容されないという特許請求の範囲の文言解釈の原則を再確認する判決を下した(大法院2021.6.30.宣告2021Da217011判決)。

 

 

事案の背景

 

「飛距離減少率に対する補正を提供する仮想ゴルフシミュレーション装置及び方法」を発明の名称とする韓国特許 第1,031,432号(以下、「本件特許」という)の請求項1は、フェアウェイ領域とトラブル領域に分かれた打撃マットでのプレーを前提とする仮想ゴルフシミュレーション装置に関する発明であって、特に「仮想のゴルフコース上にボールが置かれた位置の地形(以下、「地形条件」という)と、センシング装置によって感知された打撃マット上にボールが置かれた領域(以下、「マット条件」という)によってシミュレーションされるボールの軌跡による飛距離を調整する制御部」の構成を含んでいる(構成4)。

 

本件特許の特許権者は、仮想ゴルフシミュレーションシステムを製造する競合他社を相手取って特許権侵害差止訴訟を提起し、同訴訟においては、被告製品が前記構成4に該当する特徴を備えているか否かが主な争点となった。



 特許法院の判決

 

特許法院は、まず、構成4の文言的な記載だけでは制御部での調整の意味と方法が明確でないことに注目した。それゆえ、特許法院は、従来の法理に従って文言の一般的意味と発明の詳細な説明や図面を参酌して客観的かつ合理的に構成4の範囲を定めなければならないと述べながら、本件特許における発明の技術的課題、発明の名称、図面を含む明細書全体の記載を参酌したとき構成4の意味は、「地形条件によって設定された飛距離減少率に、マット条件によって定められた補正値を演算する方法により飛距離を調整する構成」と制限的に解釈することが妥当であると判断した。さらに、特許法院は、原告の主張のように、「地形条件とマット条件を共に考慮して飛距離を調整する全ての場合」と解釈する場合、前記文言に含まれると解されるもののうち一部が発明の詳細な説明の記載によって裏付けられないか、又は公知技術の単なる組み合わせまでも権利範囲に含まれるようになる不合理な結果が生じると述べた。結局、特許法院では、前記のような制限的な解釈が適用され、被告製品は本件特許の構成4を備えていないものと判断された。



 大法院の判決

 

大法院は、具体的な判断に先立って、下記のように特許請求の範囲の解釈の原則を再確認した。

 

特許発明の保護範囲は、特許請求の範囲に記載されている事項に基づいて定めなければならない(特許法第97条)。ただし、特許請求の範囲に記載されている事項は、その文言の一般的な意味に基づきながらも、発明の詳細な説明と図面等を参酌してその文言で表そうとする技術的意義を考察した上で、客観的·合理的に解釈すべきである。しかし、発明の詳細な説明と図面等を参酌するとしても、発明の詳細な説明や図面等の他の記載によって特許請求の範囲を制限して解釈することは許容されない(大法院2012.12.27.宣告2011Hu3230判決、大法院2019.10.17.宣告2019Da222782、222799判決等)かかる特許請求の範囲の解釈原則に即して大法院は、本事件に対して以下のように判断した。

 

(1) 本 件第1項発明の構成4は、シミュレーション結果の正確性を向上させるための飛距離調整において、地形条件とマット条件という2つの要素を共に考慮した点で技術的意義がある。

(2) 本 件第1項発明は、その文言上、地形条件とマット条件により飛距離を調整する具体的な方法を限定しておらず、本件特許の発明の詳細な説明においても、「地形条件とマット条件により飛距離を調整する」という意味を特定の飛距離調整方法として定義又は限定していない。したがって、地形条件とマット条件を共に考慮する飛距離調整方法であれば、本件第1項発明の飛距離調整方法に含まれ得る。

(3) 被告製品も仮想ゴルフシミュレーション装置であって、仮想のゴルフコース上にボールが置かれた地形条件を感知し、センシング装置によってマット条件を感知した上で、2つの条件によって飛距離を調整する構成を含んでおり、その他の構成も本件第1項発明と同一である。結局、被告実施製品は、地形条件とマット条件を共に考慮して飛距離を調整するものであり、本件第1項発明の各構成をそのまま含んでいるので、本件第1項発明を侵害するものと見ることが妥当である。

 

そこで、大法院は、明細書の例示的記載に基づいて構成4の範囲を制限解釈して非侵害であると判断した原判決を破棄し、事件を特許法院に差し戻した。



 本判決の意義

 

大法院の判決は、従来の特許請求の範囲の文言解析の原則を再確認しながら、侵害判断の際に発明の詳細な説明や図面に基づいて特許請求の範囲を縮小解釈することは許容されないことを明らかにした。