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韓国大法院、先行文献の組合せの困難性による剤形発明の進歩性を認定

  • December 31, 2021
  • 李源祥弁理士

徐放性医薬組成物に対する特許発明に関して、韓国大法院は、「先行文献を組合せて特許発明の構成が想到されるとしても、特許発明の効果が得られるかどうか予測するのが困難であり、各々の先行文献の技術的特徴が互いに異なるので、かかる先行文献の組合せによっても特許発明の進歩性は否定できない」と判断した(大法院2021.4.8.宣告2019Hu11756判決)。

 

 

事件の背景

 

韓国特許第1245919号(以下、「本件特許」という)は、3ヵ月超過の期間にわたって先端巨大症、悪性カルチノイド腫瘍及び血管活性腸管ペプチド腫瘍を治療するための公知の活性成分であるオクトレオチドを血漿レベルが治療範囲内に維持されるほど持続的に放出する徐放性医薬組成物を提供することを目的とする。

 

具体的に、本件発明は、ペプチド薬物であるオクトレオチドとポリマーとして2種の異なるポリラクチドコグリコリドポリマー(PLGA)を含むマイクロ粒子状の徐放性医薬組成物であって、2種のPLGAのラクチドとグリコリドモノマーの比率が互いに異なり、その1つは、ラクチドとグリコリドモノマーの比率が75:25であり、残りの1つはラクチドとグリコリドモノマーの比率が100:0のようにマイクロ粒子が2つの組成を有する点を特徴とする。

 

2013年あるジェネリック社は、本件特許について無効審判を請求し、特許審判院は、請求人の特許無効理由を全て排斥して審判請求を棄却する旨審決を下した。請求人はそれに不服して特許法院に控訴し、特許法院は本件特許は明細書の記載要件を満たしていないと判断した。ところが、大法院は動物実験データのみが記載された本件特許の明細書はその記載要件を満たしていると判示しながら、原判決を破棄し事件を原審に差し戻した(2018年12月発行FirstLaw IP News 「医薬発明における動物実験データのみが記載された特許明細書に対して明細書の記載要件を満たしていると判決」参照)。

 

差戻審で請求人は既に提出された主先行文献(D1)に加えて、新たな先行文献(D6)を追加で提出しつつ、本件特許はこれら先行文献の組合せにより進歩性が欠如する旨主張をした。

 

 


 特許法院の判決

 

特許法院は、D1に活性成分としてオクトレオチドを含有し、ポリマーとして2種の異なるPLGAを含むマイクロ粒子状の徐放性組成物が開示されているが、ラクチドとグリコリドモノマーの比率が50:50である2種のPLGAを、グラジェントポンプ(gradient pump)を用いて多様な濃度で供給してマイクロ粒子を製造するので、マイクロ粒子が多様な組成を有する点で本件発明と相違があることを認定した。しかし、特許法院は、請求人が提出したD6に本件発明のようなラクチドとグリコリドモノマーの比率が異なる2つの組成を有するマイクロ粒子に黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)同族体であるリュープロレリン(Leuprorelin)が含まれた3ヵ月以上の持続的な放出効果のための組成物に対する実施例が記載されているので、本件発明とD6は技術的思想が同一であり、使用された活性物質(オクトレオチド又はリュープロレリン)においてのみ異なると判断した。

 

特許法院は、本件発明、D1及びD6はいずれも技術分野及び発明の目的が実質的に同一であり、D1とD6との組合せを阻害又は排除する内容がこれら先行文献に記載されていないので、オクトレオチドを含有したマイクロ粒子状の徐放性製剤に関するD1に、リュープロレリンという活性物質に関連して本件発明と同じ組成のマイクロ粒子を含む徐放性製剤と効果を開示しているD6を組み合わせて、本件発明の進歩性を否定した。



 大法院の判決

 

しかしながら、大法院は、D1にD6を組み合わせても、D6の徐放性放出効果がそのまま表れるとは予測し難く、かつD1及びD6の技術的特徴が相違するので、通常の技術者がD1とD6との組合せで本件発明を容易に想到できないと述べながら、進歩性を否定した特許法院の判断には誤りがあったとした。

 

具体的に、大法院は、D6のリュープロレリンは、本件発明の活性成分であるオクトレオチドと分子形状、PLGAポリマーとの反応性、半減期と最小有効血中濃度、初期バースト等、剤形の放出速度に直接的に影響を与える物性と構造が異なり、通常の技術者がD1のオクトレオチド剤形にリュープロレリンの徐放性組成物の製造方法を適用しても、D6に表れた徐放性放出効果がそのまま表れるとは予測し難いと認定した。また、D1に提示されたオクトレオチド剤形に対する生体外放出試験結果によると、7日ぶりに30%を超えるオクトレオチドが放出され、本件発明の出願日当時、オクトレオチドの生体外放出効果と生体内放出効果との関係を確認し難いので、通常の技術者が本件発明のように生体内で薬物放出が約3ヵ月間持続されると予想するのは容易ではないと認めた。さらに、D6は複数のマイクロ粒子を各々製造した上、これを適正比率で混ぜて所望する放出様態を有したマイクロ粒子混合剤形を得る方式であることに対し、D1はかかる混合剤形の製造方法の工程が複雑かつ非経済的であるとの観点からこれを改善すべく、連続した単一工程で多様な組成の徐放性マイクロ粒子剤形を製造する方法を提供することを技術的特徴としているので、通常の技術者が技術的特徴の異なるD1とD6とを容易に組み合わせるとも見受け難いと判断した。

 

そこで、本件特許の明細書に記載の発明の内容を既に知っていることを前提とした後知恵によって判断しない限り、通常の技術者がD1及びD6の組合せにより本件発明を容易に想到できないところ、本件発明の進歩性を否定した特許法院の判断に違法があると述べながら原判決を破棄し事件を原審に差し戻した。

 

ちなみに、差戻審では、大法院の判旨に従って本件特許の進歩性を肯定する旨判決を下し、事件は確定された(特許法院2021.10.8.宣告2021Heo2663判決;確定)。