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特許権獲得の機会を拡大するための特許法改正

  • December 31, 2021
  • 曺豪均弁理士

2022年4月20日より施行予定の改正特許法(法律第18505号。以下、「改正法」という。)が韓国国会の本会議で2021年9月29日可決され、10月19日公布された。改正法は、出願人のミスを積極的に救済し、かつ特許権獲得の機会を最大に保障するため、(1)拒絶決定不服審判の請求期間を現行30日から3ヶ月に延ばし、(2)期間の徒過によりみなし取下げとなった出願や消滅された特許権を回復できる要件を緩和し、(3)特許決定された特許出願に対しても再審査請求を許容し、(4)拒絶決定不服審判で拒絶決定が維持(棄却審決)されても、登録可能な請求項のみを分離して出願する分離出願制度を新たに導入した。改正法は施行日である2022年4月20日に係属中の出願から適用される。以下、主な改正内容について検討する。


 

特許拒絶決定に対する審判請求期間の延長

 

現行特許法によると、特許拒絶決定を受けた出願人は、その決定謄本の送達日から30日以内に、補正を行わず審判を請求するか、或いは、明細書又は図面の補正を伴う再審査を請求することができる。その時、最大60日の期間延長が許容されるものの、かかる応答期間は諸外国に比べてかなり短く、出願人としては審判請求或いは再審査請求の要否判断や、手続きの準備をするために無理やり期間延長をし、それに係る費用を支払わざるを得ない不合理を指摘する声が相次いだ。

 

そこで、改正法は、出願人に特許拒絶決定を受けた後の応答期間を30日から3ヶ月に延ばすことで、出願人に十分な準備期間を提供し、不要な期間延長を最小化できるようにした。

 

 

特許に関する手続き・特許出願・特許権の回復要件の緩和

 

現行特許法によると、書類の提出、特許料の納付等、法律で定められた期間が徒過した場合には当該出願や特許権はみなし取下げとなるか消滅し、ただし、期間の徒過が出願人又は特許権者の「その責めに帰することができない理由」によるものであるときには、期間徒過の理由が消滅した日から所定の期間以内に特許出願又は特許権の回復を申請することができる。

 

しかし、特許出願又は特許権の回復要件である「その責めに帰することができない理由」は天災地変に限られる場合が殆どで、実務上極めて制限的に解釈されてきており、例えば、韓国特許庁の統計によると2020年の特許権の回復件数はわずか1件であった。

 

これに対し、改正法では、「その責めに帰することができない理由」から「正当な理由」に回復要件を緩和したので、今まで認められなかった出願人の病気、特許料(登録料)の納付ミス等の場合も「正当な理由」として救済できることが期待される。



特許決定後にも再審査請求を許容

 

現行特許法によると、特許決定後には特許請求の範囲の変更手続きが複雑であるため、市場状況による適切な権利行使が不可能であるか、より強い特許権を確保することが困難である問題があった。そればかりか、出願人が望んでいる内容が含まれていないまま特許決定された場合、これを訂正するためには訂正審判を請求するほかないので、再審査請求の対象を特許拒絶決定された特許出願だけではなく、設定登録前の特許決定された特許出願にまで拡大する必要性が指摘されてきた。

 

そこで、改正法では、特許決定された出願に対しても設定登録前までは再審査請求ができるように許容したところ、特許決定された後にも市場状況に応じて特許請求の範囲を補正することができ、また出願人が見落とした誤りが特許決定後に見つかった場合、これを正すことができる等の改善効果が見込まれる。



分離出願制度の導入

 

現行特許法によると、一部の請求項は登録可能であるものの、出願全体として拒絶する旨の特許拒絶決定を受けた出願人は、(1)請求項の補正と共に再審査を請求するか、(2)補正を行わず拒絶決定の不当性を争う拒絶決定不服審判を請求するか、(3)または、登録可能な請求項をもって分割出願をすると共に拒絶決定を受けた請求項に対しては拒絶決定不服審判を請求する等の対応を取ることができる。

 

仮に、出願人が費用の観点から予備的な分割出願をしないまま(2)案のような拒絶決定不服審判だけを請求したが、結局、拒絶決定を維持する旨の審決(棄却審決)を受けた場合には、登録可能な請求項があるにも関わらずそれを救済することができなくなり、出願人の特許獲得の機会が制限されるとの問題点があった。かかる問題点を解消すべく改正法では、たとえ拒絶決定不服審判で棄却審決を受けたとしても、登録可能であると判断された請求項を分離して出願することで速やかに権利を獲得できる「分離出願」制度を導入した。

 

なお、分離出願は分割出願とは異なる制度であり、(1)元の拒絶決定で拒絶されていない請求項のみが分離出願の対象となり、(2)拒絶決定不服審判が棄却されてその審決謄本を受けた日から30日以内に出願しなければならず、(3)分離出願は新たな分離出願や分割出願の基礎となることができず、(4)分離出願の要件を違反した場合には特許拒絶決定または無効審判の対象となる。