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韓国大法院、権利範囲確認審判において均等可否を審決時を基準にして判断

  • March 31, 2023
  • 曺炯恩弁理士 / 李源祥弁理士

最近、韓国大法院は、権利範囲確認審判において確認対象発明が特許発明の特許請求の範囲に記載の構成中、変更された部分を有する場合でも、審決時を基準にしてそのような変更が通常の技術者にとって容易に想到できる程度であれば、該確認対象発明は、特許発明の特許請求の範囲に記載の構成と均等なものと見受けられる旨判決を下した(大法院2023.2.2.宣告2022Hu10210判決)。 

 

 

 

事件の背景及び特許法院の判決

 

本件特許発明は、経口用糖尿病治療剤として用いられるダパグリフロジン化合物

)を含む化学式Iの構造を有する新規な化合物に関するものである。特許権者の競合社たるジェネリック会社Aは、自身が実施しようとするダパグリフロジンのプロドラッグエステル化合物であるダパグリフロジンギ酸塩 

 ()(以下、「確認対象発明」という)が本件特許の権利範囲に属しない旨判断を求める消極的権利範囲確認審判を請求した。 

 

 

特許審判院は、確認対象発明のダパグリフロジンギ酸塩が本件特許発明のダパグリフロジンと均等関係にあると言えず、確認対象発明は、本件特許の権利範囲に属しない旨審決を下した。特許権者はこれに不服して特許法院に審決取消訴訟を提起した。 

 

 

特許法院は、本件特許発明のダパグリフロジンを確認対象発明のダパグリフロジンギ酸塩に変更することは、通常の技術者であれば何人とも容易に想到でき、特許権者が出願手続きを通じて本件特許発明の権利範囲から確認対象発明のダパグリフロジンギ酸塩を意識的に除外しようとする意図があったと見受け難いと述べ、確認対象発明は本件特許発明と均等関係にあるので本件特許の権利範囲に属する旨判決を下した。 

 

 

 

▶ 大法院の判決 

 

A社は特許法院の判決に不服して上告したものの、大法院は、構成変更の容易性及び意識的除外可否に対する特許法院の判断に誤りがないと判断した。 

 

一方、大法院は、特許法院が均等可否の判断時点について言及しなかった点に注目した。これに関連して、大法院は、均等侵害を認める趣旨は構成の僅かな変更による特許侵害回避の試みを阻止することにより、特許権を実質的に保護するためであることを考慮すると、通常の技術者がダパグリフロジンをダパグリフロジンギ酸塩に変更することが容易であるか否かは、権利範囲確認審判の審決時を基準にして判断すべきであったと語った。つまり、本件特許の化学式Iの化合物中、ダパグリフロジンが経口用糖尿病治療剤として特に効果がある点を示す、特許出願以後に公知された立証資料まで参酌した上で判断できるとのことである。 

 

 

これに踏まえて、大法院は、下記のような事情を考慮すると、本件特許発明のダパグリフロジンを確認対象発明のダパグリフロジンギ酸塩に変更することは、審決時を基準にして、通常の技術者であれば何人とも容易に想到できる程度であると判断した:(i)活性化合物であるダパグリフロジンのヒドロキシ基を対象として選んでエステル形態のプロドラッグを作製することはよく知られたプロドラッグの設計方式であり、(ii)通常の技術者がダパグリフロジンをダパグリフロジンギ酸塩にプロドラッグ化するために、適切なエステル化位置を選択することに困難性がなく、(iii)ギ酸は、最も簡単な化学構造を有し、体内安定性も証明されたカルボン酸であって、ダパグリフロジンギ酸塩を作製するための選択に困難性がない。 

 

そこで、大法院は、確認対象発明は本件特許発明と均等関係にあると認め、確認対象発明が本件特許発明の権利範囲に属すると判断した原審判決を容認した。