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韓国特許法における損害賠償額の算定

  • March 29, 2024
  • 朴榮敏弁理士

韓国特許法第128条第1項によれば、特許権者又は専用実施権者(以下、「特許権者」という)は、故意又は過失により特許権又は専用実施権を侵害した者に対しその侵害により受けた損害の賠償を請求することができる。これに関して、特許権者の損害額は以下の3つの方式のいずれかに基づいて算定されることができる。 

 

(1) 侵害による逸失利益 

(2) 合理的実施料 

(3) 法院の裁量により定められる損害額 

 

 

▶ 侵害による逸失利益


関連法条項:第128条第2項第1号

 

特許権者の逸失利益を算定するためには、侵害がなかったならば特許権者が販売可能であった特許権者の製品の数量を算定することが必要となり、特許法第128条第2項第1号は、基本的に侵害者によって譲渡された侵害品全体を特許権者が販売可能であった数量と仮定する。よって、逸失利益は、販売又は流通した侵害品の総数量に特許権者の単位数量当たり利益額を乗じて計算される。 

 

しかし、例外的に特許権者の生産能力が侵害者の譲渡数量を超えない場合、損害算定の対象となる侵害者の譲渡数量は特許権者が生産することができた数量に制限される。また、損害算定の対象数量は特許権者がマーケティングネットワーク、営業力、広告予算などの制限により関連製品を一定水準を越えて販売できなかったという点が立証される場合にも減少され得る 。

 

一方、特許法院は「特許権者の単位数量当たり利益額」が純利益または限界利益、即ち、特許権者の製品の販売額から生産費用及び販売費用を差し引いた金額に当たると認めた ( 特 許 法 院 2017Na1315 及 び2018Na1275判決等参照)。 

 

 

逸失利益の推定:第128条第4項 

 

侵害による逸失利益を立証することが難しい場合、特許権者は、特許法第128条第4項に従い侵害により得た侵害者の利益額に基づいて損害賠償を請求することができ、このとき侵害者の利益額は特許権者の逸失利益と推定される。

 

特許法第128条第4項を適用するにあたって、法院は事件毎に様々な算定方法を適用している。特許法院2016Na1745判決及び大法院2013Da18806判決では、侵害者の販売量に標準所得率を乗じて侵害者の利益額を算出した。ここで、標準所得率は業種別に異なるものであって、侵害者の販売収益を、原材料費用、賃貸料、人件費及びその他項目を含んだ全体生産費用に分けて計算される。 

 

また、大法院2006Da1831判決においては、侵害者の販売収益から主要生産費用を差し引いた後、その他費用の15%に該当する金額を更に差し引く方式で侵害者の利益額を算出した。 

 

しかし、大法院は、特許権者が関連製品を生産する能力に欠ける場合には特許法第128条第4項を適用することができないと判断 した ( 大 法 院 96Da43119 、2006Da1831及び2013Da21666判決等参照)。 

 

 

 

▶ 合理的実施料:第128条第5項


逸失利益による損害賠償の請求が適切でないか望まれない場合、特許権者は、特許法第128条第5項の規定により侵害者が販売した物の全体に対し、合理的実施料に基づいた損害賠償を請求することができる。当該条項は、逸失利益の代わりに侵害者がライセンス契約下で支払ったはずの仮想のライセンス料に基づいた代替的な補償方案を特許権者に提供する。 

 

更に、特許権者は、特許法第128条第2項第1号及び第2号に従い、逸失利益と合理的実施料を併せて請求することができる。即ち、特許権者は逸失利益の損害賠償を請求できなかった、生産能力を超過する物の数量、若しくは市場進入や流通の問題で販売できなかった物の数量に対する合理的実施料について、逸失利益に加えて賠償を受けることができる。 

 

合理的実施料の算定にあたっては、次のような要素が考慮される(大法院2006.4.27.宣告2003Da15006判決参照)。 

 

①特許発明の客観的な技術的価値 

②特許発明に対する第三者との実施契約の内容 

③侵害者との過去の実施契約の内容 

④当該技術分野において同種の特許発明が得られる実施料 

⑤特許発明の残余保護期間 

⑥特許権者の特許発明の利用形態

⑦特許発明と類似した代替技術の存在有無 

⑧侵害者が特許侵害により得た利益 

 

 

▶ 法院の裁量により定められる損害額:第128条第7項


損害賠償額の算定のための証拠または参考資料の不足などにより逸失利益及び合理的実施料の算定が困難である場合、法院は特許法第128条第7項に基づき裁量により相当の損害額を認めることができる。 

 

韓国の特許侵害訴訟においては、大部分の損害賠償が特許法第128条第7項を適用して算定されており、法院は事案別の事実関係に応じて様々な方式を使用している。 

 

相当の損害額を決定するにあたっては、逸失利益又は合理的実施料に関して提出された証拠資料が損害額算定の参考になること ができる 。 例えば 、 特許法院2018Na2063及び2018Na2070判決では、侵害者が得た利益額と関連した資料を参考にし 、特許法院2021Na1268判決では、侵害者が得た利益額及び合理的実施料と関連した資料の両者を参考にした。

 

 

 

▶ 損害賠償訴訟実務の現況及び見通し  


特許侵害訴訟に係る技術及びビジネス環境が複雑になるにつれ、法院の裁量により定められた損害額が損害賠償額として認められる事案が増えており、このような傾向は逸失利益又は合理的実施料の算定のための直接的な証拠が足りない事案で特に目立っている。 

 

法院は裁量により相当の損害額を算出するにあたって、特許権者が主張した逸失利益金額、関連業界での既存実施料、訴訟当事者間の関係、非侵害代替品の有無といった様々な要素を総合的に考慮している。 

 

なお、特許法第128条第8項及び第9項の改正により、特許の故意的侵害の場合、損害賠償額が今後最大5倍まで引き上げられるところ、これにより韓国での特許関連訴訟も増加すると見込まれる。