大法院は、2024年5月30日、不正競争防止及び営業秘密保護に関する法律(以下、「不正競争防止法」)違反に係る重要な判決を下した(2022Do14320判決)。この判決は、不正競争防止法(2018年)第18条第2項に規定された、営業秘密侵害者が「不正な利益を得るか営業秘密保有者に損害を与える目的」をもって行動したか否かの立証に求められる証明水準に重大な影響を及ぼすものである。
▶ 事件の背景
本事件に関連する被告は総4人であり、被告人1は接着剤製造会社(以下、「被害会社」)で勤務した生産部社員であり、被告人2は被告人1が被害会社を退社した後に勤務した最初の競争社の技術研究所所長であり、被告人3は被告人1が最初の競争社を退社した後に勤務した2番目の競争社(以下、「被告人4」)の技術研究所所長である。
被告人1は、被害会社に勤務する間、被害会社が独自的に開発・生産して、機密として管理する、携帯電話用防水粘着剤の製造方法に係る資料を業務上に使用しながら、自分の携帯電話カメラで該当資料を無断で撮影しておいた。被告人1は、被害会社を退社した後、2つの競争社で順に勤務しながら、被告人2及び被告人3の指示に従って、被害会社の営業秘密情報を2つの競争社に提供し、競争製品を開発することに該当情報を使用した。
▶ 下級審の判決
1審において、大田地方法院は、全ての被告人が「不正な利益を得るか営業秘密保有者に損害を与える目的で、その営業秘密を取得ㆍ使用するか、第3者に漏洩した者は、5年以下の懲役又は5千万ウォン以下の罰金に処する」という不正競争防止法(2018)第18条第2項規定を違反していると認めた。
控訴審において、大田地方法院合議部は、1審判決を破棄した。控訴審法院は、不正競争防止法第18条第1項及び第2項による刑事責任を問うためには、故意の他にも、更なる要素である「不正な利益を得るか営業秘密保有者に損害を与える目的」の存在を立証しなければならないと解析しつつ、この更なる証明要求は、個人の雇用の自由又は職業変更の自由を保護するための憲法的要求から始まったことであり、この基本権は、人間の尊厳性と直接関連があるので、財産権のような経済的利益を保護するために容易に妨害されるか制限されてはいけず、上記のような目的の存在が容易に認められる場合、個人の職業上機会を過度に阻害するはずであると語った。また、控訴審法院は、会社で働く間に蓄積された一般の技術、知識、経験、及び顧客関係が会社の営業秘密に該当するか否かに関連して、このようなものが会社の費用で蓄積されたとしても、職員個人に帰属されるべきであり、会社の営業秘密と見なされてはいけないと判断した。
そこで、控訴審法院は、被告人1が業務上取得した被害会社の秘密情報を流出してはいるものの、該当情報を不正競争防止法上営業秘密として認識して取得したり、不正な利益を得るか被害会社に損害を与える目的を持っていたとは断定し難く、他の被告人もこのような目的で該当情報を使用したとは認めにくいと判示した。
▶ 大法院の判決
大法院は、控訴審判決を破棄し、本事件の粘着剤の製造方法は不特定多数人に公開されたことがないので、不正競争防止法上の営業秘密に該当すると判断した。大法院は、上記製造情報が携帯電話用防水粘着剤の製造のための具体的な製法と工程を含むものであり、被害会社が相当な費用と努力をかけて開発しただけでなく、その使用から、被害会社が競争上の利益を得るようにしており、被告人1も退社後の相当期間上記情報を機密に維持するという内容の秘密維持協約書に署名したことを指摘した。
大法院は、上記製造方法が被害会社の営業秘密に該当する限り、被告人らは、被害会社の許諾なく、関連情報を漏洩するか使用してはいけないことを未必的にも認識した余地が大きいと述べながら、被告人の職業と経歴、行為の動機と経緯、被害会社と被告人の間の関係などを総合してみると、被告人1は、不正な利益を得るか被害会社に損害を与える目的で関連情報を使用して他の被告人にこれを漏洩し、被告人2乃至4も、不正な利益を得るか被害会社に損害を与える目的で、該当情報を取得し使用したと認める余地が十分であるという結論に至った。
▶ 本判決の意義
本判決は、不正競争防止法違反の犯罪を定義するか立証することにおいて、犯意の水準を高めようとする控訴審法院の試みを事実上無力化し、不正競争防止法の下で犯罪成立のための「意図」と「目的」間の区別を除去し、さらには、ある情報が営業秘密と認められる場合、直接的な証拠がなくても、営業秘密侵害者の意図や目的は状況証拠により推定できることを明らかにした。今回の判決は、憲法的権利である職業の自由という名目下で、産業スパイ行為や営業秘密奪取行為の見逃しをこれ以上許容しないという強力な抑止メッセージを産業界に伝達したことであり、営業秘密侵奪に対する強力な制裁を促す韓国社会の最近情緒を裏付ける。